鼠径ヘルニアの治療について

鼠径ヘルニアの治療について

鼠径ヘルニアは、手術以外に治す方法はなく、薬や運動療法で有効なものはありません。ヘルニアバンド(脱腸帯)は、治療ではなく押さえこむためのもので、外すと飛び出してきてしまったり、ちょっとした動作や歩行によってずれてしまって飛び出すこともよくあります。対処療法としてヘルニアバンドを使うという考え方も以前はありましたが、お体に負担をかけない手術が可能になった現在では、ヘルニアバンドの治療は、専門医では治療に用いられません。子どもの鼠径ヘルニアはかなり低い確率ではありますが自然に治るケースがないわけではありません。しかし、成人の鼠径ヘルニア(脱腸)は自然に治ることは絶対にありません。

鼠径ヘルニア(脱腸)は良性の病気ではありますが、放置すると嵌頓(かんとん)を起こすことがあり、この状態になった場合には命にかかわる可能性も出てきます。そのため、嵌頓の場合には緊急手術が必要になります。そうなる前に専門医を受診して、早めに手術を受けるようにしてください。なお、嵌頓が起こるのは全体の約5%程度とされており、ヘルニアになっている場所によって発症率は変わります。

最新腹腔鏡システムを導入しております

 

最新腹腔鏡システムを導入腹腔鏡下手術とは、大きくおなかを切り開かず、小さな切開で手術が可能な手法です。腹腔鏡(ふくくうきょう)と呼ばれるカメラ(電子スコープ)でおなかの中の様子をテレビモニター画面に映し出し、3㎜、5㎜、10㎜程のいくつかの小さな孔から長い手術道具をおなかに入れ、外から操作して手術を行います。腹腔鏡手術は開腹手術と比べて非常に小さな創だけでできますから、以下のように様々なメリットがあります。

  • 傷口が小さい
  • 術後の痛みが少ない
  • 体に対する負担や合併症が少ない

腹腔鏡システムは、腹腔鏡下手術において医師の目となり、手となる根幹の機器であり、経験豊富な専門医が使うことでその効果を最大限引き出せるものなのです。

 

当院で行っている鼠径ヘルニアの手術方法

ダイレクトクーゲル法

米国のDAVOL社とDr Kugel らによって考案された手術方法で、手技にやや熟練を要しますが、再発例は少なく、成績は良好です。さらに、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア等、さまざまなタイプの同部のヘルニアの再発も予防できるという特徴を持っています。

この手法では、形状記憶リングに縁取られ、中央にストラップの付いた楕円形の人工補強材(ポリプロピレン製メッシュ)を使います。これで腹膜のすぐ外側を広く覆うことで、鼠径部の弱い部分の全体を一度に補強することができるため、腹圧に対する耐久性に優れています。形状記憶リングがあることでパッチは広く腹膜前腔に展開しますから、ヘルニアの起こりうる部位(Hesselbach 三角、内鼠径輪、大腿輪、閉鎖孔、外側三角)を同時にカバーし、補強することが可能です。

プロリーンヘルニアシステム

プロリーンヘルニアシステムとは、メッシュでヘルニア門を閉じる時に使われる手法の一つです。この手法では、2枚のメッシュを使います。片方のメッシュをヘルニア門からおなか側の筋層の裏側に入れ、もう片方のメッシュを筋層の外側に乗せてヘルニア門をふさぎます。

従来のメッシュ・プラグ法では大腿ヘルニアのヘルニア門の閉鎖が問題でしたが、プロリーンヘルニアシステムではその問題も解消しています。また、内側にあるメッシュの広がりが悪かった場合にも、外側のメッシュで補うという長所を持っています。

子どもの鼠径ヘルニアの治療法

小児の鼠径ヘルニア手術と、成人の手術ではその方法が異なります。小児の場合は、はみ出した部分であるヘルニア嚢の根元を糸で縛り、ふさいでしまう方法がとられます。成人の手術では人口補強材を使用しますが、小児の手術では身体が未成熟であり、発症した根本の原因が筋力の衰えではないことから、人工補強材は使用しません。

LPEC法

おなかの中に内視鏡(カメラ)を入れて観察しながら手術を行います。臍の中央から直径3mmという細いカメラを挿入し、二酸化炭素でお腹を膨らませ、ヘルニア門をテレビモニターに映して観察します。その後、右側腹部に2mmの小さな切開を加え、そこから鉗子という細い器具を入れ、鼠径部からヘルニア用に作られた特殊な針を使用してヘルニア門の周囲に糸をかけて閉鎖します。

患部を腹腔鏡で拡大して行うため、以前の手術に比べ精管・精巣動静脈を愛護的に扱うことが可能です。そのため、術後の陰嚢の腫れも起こりません。また、傷が非常に小さいだけでなく、臍の中を利用するため術後に傷がほとんどわからなくなります。この手術を行っている間に、症状のない対側のヘルニアの穴が見つかることがよくあり、その場合は新しく発見した穴の手術も同時に行います。

メリット
  • 傷が小さく、ほとんど残らない
    傷はおへそと鼠径部の穿刺跡のみです。
  • 反対側にヘルニアがないかも確認可能
    腹腔鏡を用いることで、反対側(健常側)のヘルニアの有無も観察でき、反対側にもあった場合には同時に手術を行えます。これにより、術後の「対側発症(反対側のヘルニアが出ること、5~10%に発生)が劇的に減少します。

治療費用

鼠径ヘルニアの手術は保険診療です。

1割負担 3割負担
手術 約15,000円 約50,000円
腹腔鏡を使う場合 約30,000円 約90,000円